声明とは真言(しんごん)や経文などに節をつけて唱える仏教儀式の伝統的声楽曲である。インドに発祥した仏教音楽は、中国に渡り漢訳されたり、新作が作られたりするなかで中国化されてゆき、5〜6世紀の仏教伝来とともに声明(しょうみゅう)として日本に伝えられた。東大寺大仏殿の開眼供養(752)で行われた四箇法要(しかほうよう)は伝来当時の古い姿を残した声明だった。
9世紀には入ると、最澄や円仁が入唐、新たに密教系・浄土系の声明を日本に伝える。最澄が建立した比叡山延暦寺はこれまでの声明を包含しつつ、天台声明として独自のものを確立していく。天台声明の実質的な創始者は円仁であり、10年間の唐留学中に唐代の仏教儀式を深く研究し、総合的な声明体系を確立した。


JTRAD 008

「四智讃梵語」(しちさんぼんご)は唐代の密教系声明の姿を今に伝える梵語讃(ぼんごさん)[サンスクリット音を漢字で表記した曲]の代表曲である。内容は仏の四つの知恵を讃える詩で、鏡のようにあらゆるものを差別無く現し出す智(大円境地)、自他すべてのものが平等であることを証する智(平等性地)、平等の中におのおのの特性があることを証する智(妙観察智)、あらゆるものをその完成に導く智(成所作智)の四つが唱えられる。まず道場に入る前に外陣に列立してこの讃を唱えるがこれを「列讃」(れつさん)といい、つづいて同じ曲を内陣にはいり唱えるがこれを「入堂讃」(にゅうどうさん)という。
即眞 尊靈 天台声明音律研究会